成長するということと恋と愛
先日誕生日を迎えました。年ばかり重ねていますが、中身はそれほど成長している様子もなく、日々子供っぽく過ごしています。成長って何だろう。
そんな頭打ちも著しい私が今日選んだ作品はこちら。
恋する編集者シリーズ つよがり
相馬 美紀彦
(CV:四ツ谷サイダー)
私、この作品に関しては本当によく考えました。とっても思いの巡らせ甲斐がある作品です。(というか、このシリーズは全作品とっても掘り下げ甲斐のある作品ぞろいですから、いずれぜんぶ語りたいと思っています。)とりあえずはシリーズ中マイベストとなっている、社長とライターのじれったい恋物語から。
慰労会と称した飲み会から始まるこの作品、二人はいい年齢の大人同士であることがうかがえます。同業同士のヒロインと相馬さん、つかず離れずの長いお付き合いの匂いがします。てか待ち合わせとは言え飲み屋に先に来て一人でバーボンソーダ飲んでる女性とか、なかなかいかついで。そんなところからも、世の荒波に向かって肩肘張ってるヒロインの様子が伺われたり。
そんな彼女の愚痴を、ふんわり優しく引き出していく相馬さん、のっけから気持ちだだ漏れですやん!自分の愚痴も話すは話すけどそんなのはお刺身のつまみたいな扱いで、あくまでも彼女の愚痴を聞くのがメイン。週刊誌の埋め草連載が消えたっていうスケールの小さな話でも、きちっと聞いてあげますし共感してあげます。
ほんとお前ヒロインのこと好きな。
そんな相馬さんに対して、何故かさっさとあなたの部屋に行こうと誘うヒロイン。もう少し飲みたかった相馬さんも面食らったけど聞いとる私も面食らったわ。どうした急に!
まぁ、分かるんですよ。この後の展開を聞けば聞くほど、ここのヒロインの心情は痛いほどわかるようになります。
意地張らなきゃやってらんないんだよね。
そんなこんなで最初のベッドシーンは途中からのフェードイン。いやあ、四ツ谷さん、途中からでもクソエロいっていうか色っぽいこと。大人同士、長い付き合いのもの同士の慣れたセックスですが、おざなりなわけではなくて情熱的。なぜかって言うとお付き合い保留処分を受けているのです。
俺の昇格はまだ?と尋ねるも素気無く袖にされてしまう相馬さん。毎回よく懲りずに、的なことを言われても、「毎回決め打ちしておかなくちゃ」とスタンス変更の気は全くない様子。
でも、相馬さん決して結論を急かしたりもしません。俺にしとけよ、なんて不遜なことも言わない。今のお前の気持ちはどう?とあくまでもヒロインの気持ちが動くのを待つ構えです。
お前いい男だなぁ!
こんな男になびかないなんてどうかしてる、と思うよ…わたし…でも、これには深い事情があるのです。
ここから、トラックは過去に戻ります。大学生の頃、ヒロインと相馬さんの出会いの日。携帯を落としたヒロインと、マス研の部室で出くわす相馬さん。行きがかり上一緒に探すことにします。かわいいなと思ったヒロインが困っているのをいいことに、「見つけたらデートを」と申し込んだりして。
この時の相馬さん爽やかお化けです。屈託なくて明るくて、爽やか。愛情もお金も存分に注がれて育った、眩しいほどに自信に満ち溢れた男。本当に眩しいんです。変な話、暴力的なほどに。
方やヒロインは、携帯よりもそれについていたプチトマトのストラップが大切な女の子。なぜそんなにそのストラップが大切なのかというと、亡き母の形見だから。
ここで、彼らの違いが浮き彫りになります。
ストラップを無くしてしまったなら、お母さんに謝ってもう一度作ってもらえばいいと言う相馬くんに、それはできない、母の形見だから、と言うヒロイン。相馬くんは言葉を失ってしまいます。
喪失を知らない幼い世間知らずの少年と、喪失ばかりを知って世に擦れてしまった頭でっかちな少女。
この格差を埋めるのはなかなかじゃないな
と、瞬間的に思ったよね。
案の定のことが起きてしまいます。
うまくお付き合いにこぎつけて、最初のうちは上手く行っていたんです。彼女は料理上手で、しっかり者。相馬くんは結婚すら夢見てしまっていたと思います。
誠実だなとは思います。卒業を目前にした大学生で、幼いながらももう社会のとば口に立っていて、年齢的には結婚できる頃。大人として、先のことを考えてみたくなる年頃だと思う。相馬くんみたいに、何もかもが順風満帆で挫折を知らない人なら尚更。
悪いことではない。むしろ、好感持てるくらいの誠実さなんですよ、ババアの目から見ると。
でも彼のその真っ直ぐさは、時には暴力にもなりうる。
ある日、相馬くんは就活に行き詰まる彼女に「自分の親父にあってみないか」と誘い、家へと招きます。そこで彼の父親の失礼な発言が発端となり、別れ話に発展してしまいます。
でもね、これヒロインが言うように、彼のお父さんが悪いわけではないんです。
彼らを決定的に分けてしまったのは、環境の違いなのです。
始めから、それは明らかだった。ストラップを「謝ってもう一度作ってもらえばいい」と言った彼。彼には、「失ったら二度と手に入らないもの」なんて何一つなかった。出版社の跡継ぎとして将来も約束され、自分で食事の用意をする必要もなく、両親も揃っていて何不自由もない。
対して、彼女は身寄りもなく、学業は奨学金頼りで余裕もなく、就職活動にも行き詰まっている。プチトマトのストラップはなくしたら二度と手に入れられないし、ご飯は自分で作らないと食べられないし、花屋でバイトしないと生活もできない。料理が上手いのも、花に詳しいのも、全て必要に迫られてのこと。
相馬くんが「外から与えてもらうもの」は、彼女には「自力で獲得しなければならないもの」なのです。
苦労して生きている彼女にとって、愛されて育った彼の無自覚な明るさは暴力でしかなかった。物事を照らし出す光が強ければ強いほど、生み出される影は深く、濃くなってしまう。自分の背負ったものが生み出す影の濃さが、彼女には耐えられなかった。結果、彼女は大した説明もなく彼の前を去ります。
悲しすぎる。誰も悪くない。二人共が子供過ぎただけで、誰も悪くない。
こういうすれ違いって、誰にでも起こりうることだと思います。生育環境の違いって埋めがたいもので、モノの見え方とか味わい方が全然違ってくる。そういう根本的なところが違うと、小さなことが原因で、決定的に分けられてしまう瞬間がある。悲しいことだけど、そういうことでできた溝って、話し合いでは埋まらないものです。そしてこれは、どっちかが一方的に悪くて起こることではない。
大人同士なら、溝を生むような小さな原因を、躓く前に話し合って排除することもできる。もっと小さなものなら、見てみぬふりをしたりお互い様と棚上げしたりもできるようになる。大人というのは良くも悪くもこ狡いので、いろいろなものと折り合いをつけることができる。でも悲しいかな、それができるほど彼らは大人じゃなかったんですよね…
そうして、しばらくの時を経て、相馬くんがまたヒロインの前に現れます。とあることで彼女の文章に触れた彼は、いても立ってもいられず彼女に会いに来ます。卒業後三年程、世間の荒波に揉まれて、幼かった自分の傲慢さや鈍感さを思い知ったと謝罪する相馬くん。
何年立って誰もと付き合ってもヒロインのことを忘れられなかった彼は、曖昧な態度を取る彼女に「お前がそういう態度でいるなら、俺はつけ込む。」と迫ります。
切迫して、興奮している相馬くん。クソエロいです。ほんと、ヒロインのことを求めてやまない感じがね…あーこれがブチ犯しってやつか、なんて思って興奮する私、最低かな…って反省したりして。
お前の唇だ、ずっとほしかった、と、激情に流されるように体を求める彼に、全くの無抵抗なヒロイン。「好きなようにするといい」と言ってしまう気持ち、わからないようでわかる気もする。ヒロインはヒロインなりに、あの日相馬くんをひどく傷つけたことを後悔していたんでしょう。
でも、その対応はちがくねえか?
案の定、相馬くんは更に傷つき、泣き出してしまいます。こんな関係になりたいわけではない、と。
でも、ここからが相馬くんが「相馬さん」にランクアップするターンです。
一方的に気持ちをぶつけて悪かった、と謝る彼。でも、友達には戻れない、やり直したいとはっきり告げます。
そんな相馬くんに、ヒロインは「恋人関係になるのはこわい、束縛しない関係ならいい」とこたえます。
それに対して、「諦めないのは俺の自由だ」と宣言する相馬さん。
大人になってる……急に!!
ここでまた現在に戻ってきます。あれから五年、付かず離れず、寂しくなったら愚痴を行ったり抱き合ったりの関係を続けている二人。相馬さんの攻撃をのらりくらりと交わし続ける彼女と、そんな彼女に飽きることなくアタックを続ける相馬さん。
一途だねぇ!いい男だよ!!自分の都合で突っ走ったりしなくて、待ちの姿勢を続けてる!
冒頭で言っていたとおり結婚話しも少なくなかったろうに、お断りを続けて野武士集団とバーサーカーみたいな彼女に人生を費やす相馬さん。おしんか!!!気の毒か!!!早く報われろ!!!と私の中の泉ピン子が大騒ぎです(ピン子は多分そういう役割じゃなかったな、おしん…)。
そんなある日、相馬さんとヒロインは仕事先で一緒になります。相馬さんは出版社の社長として商業ビルのオープンセレモニーに出席するために、ヒロインはしがないフリーライターとして、そのビルのテナントショップの取材のために。相変わらずの格差ですが、お互い大人になった今では、そのへんはうまく折り合っているようです。
しかし、ここで大きなアクシデントが発生します。風に煽られ倒れたフラワースタンドに巻き込まれそうになった彼女を、相馬さんがかばったのです。
どうしてかばったと怒るヒロイン、絶対に見てもらえと救急車まで呼びます。「惚れた女に怪我をさせるくらいなら、男やめる」と言い放つ相馬さん、すげーいい男!!
大したことないと言い張る相馬さんに対して一歩も引かないヒロインは、自分も救急車に乗り込んで病院に行きます。もちろん、大した怪我ではないので湿布をもらっておしまい。
ここで初めて彼女の本音が表れるんですよね。仕事優先というルールを破って取材をほったらかして相馬さんに付き添ったのは、彼を失うのが怖かったから。
恋人にならなかったのも、つかず離れずを続けたのも、彼を失いたくなかったから。そりゃそうだよね。お父さんもお母さんもなくした彼女、もう大切なものを作りたくなかったんだよね。大切なものを作ってしまったら、いつかはなくしてしまうから。トマトのストラップのように、お気に入りのピアスのキャッチのように。
そんな彼女を気持ちを、相馬さんは全部知ってました。ええ男!!!!!!!!そして、こんなことを言うんです。
お前は出会ってから大事なものをなくしてばかりだけど、おれはきちんと見つけてきた。俺はそういう役割だと思うから、お前ごと全部俺に預けてくれよ。嫌なことも悲しい過去も、全部まとめて預かってやる。
こんなん言われて泣かない女いる…?
自分のことを隅々までわかってくれて、自分のために成長してくれて、自分の気持ちが動くまで長い時間待ってくれて、挙句の果にはすべて預けろって言ってくれて…
これどんなプロポーズ?!
しょうもないとは言えアクシデントのあとでサラッということじゃなくね?!
でもこのタイミングしかないか……(納得)
相馬さんは相馬さんで、病院で「(怪我人の)身内か?」と聞かれたヒロインがなんのためらいもなく肯定したのを見て鳥肌立てて喜んでました。そして、そんな彼女を絶対に一人にしないために、長生きを約束します。うん、いい男だ……
そして、長いこと言わずにいた言葉を言います。(この時も言ってもいいかと確認を取るの、本当に優しい)
好きだよ。初めてあったときから、好きなままだよ。
死ぬってー!!!何なの、もう!!!
ヒロインも、やっと素直になります。あなたの前でなら泣ける、あなたが好き、と。や~良かった!!!
そして、「やっと落ちてきてくれた。抱くぞ。」の宣言!!!
なぁ、「抱くぞ」って言われて抱かれるとかそれなんてエロゲ?(いえ、これはシチュエーションCDです)
今までずーっとお伺いたててたくせに、急に男らしく宣言すんのやめて!!!かっこよすぎ!!!!好きだ好きだ言わないで!!!甘すぎ!!!俺のものだって言わないで!!!死んじゃう!!!!
思いの通じ合ったセックスをする二人、クソエロです!
相馬さんたら、むちゃしそうなんだってさ、童貞思い出すんだってさ、されるのよりするほうが好きなんだってさ!!(でも彼女にされちゃって口に出しちゃう隙だらけ野郎です)
どうでもいいけどさ、これね、よくあるけどすごいなって思うのが、口に出したあとによくキスできるよね…あれ、ホント勇気あるわぁ…(やめろよ)
さて、可愛いままでメモリぶっ壊れ状態の彼女をついに抱きますよ。
ねえ、四ツ谷さん、ほんとにエロいよ……ほら…の言い方、ほんとにエロいよ!
わたし、この作品で四ツ谷さんにダダハマりした口ですが、基本余裕の態度の人が一瞬見せる切迫がやばい!のと、あと、とろけるほど甘い声に混ぜる息の割合な……ほんと…エロいです……
一戦終えたところでヒロインの携帯がなります。取材をすっぽかした彼女、当分仕事を干されるようです。
ここで、「じゃあ俺んとこで働けよ」と、自分からは言い出さない相馬さん。おお、気の毒に、次がまたあるさ、と芝居がかった口調でおどけて慰めます。よくわかってるよね、彼女の性格。自立したもの同士として、彼女のプライドを立ててあげます。
しかし、ここからが彼女の成長です。「自分を使ってほしい」と、素直にお願いするのです。
わお!よく言った!偉いぞ!!
プライドの高かった彼女が、ようやく身の丈にあった形で彼に頼ることを覚えた瞬間です。とっても嬉しそうな相馬さん、良かった…!!
さいごに、「何があってももう二度と離れない」という唯一のルールを決めて、お話は終わりを迎えます。
あー…よかった……
かくして大団円を迎えた二人、特典ではきっちり結婚まで持ち込みます。(恋する編集者シリーズはこういうとこ本当に優秀で、みんな特典である程度将来が展望できるようになっています)
強がってばかりだったお子ちゃまヒロインがようやく強がりをやめられるようになっておばちゃん嬉しいよ……
なんかさ、エロの説明っつーか感想少ないじゃん?って思ったろ?
エロくないわけじゃないから!!ただ、
エロも素晴らしいけど物語が素晴らしいのよ、この作品は!!!!!
そこんとこまじでよろしくお願い申し上げたい!
幼かった二人が長い月日を掛けて自立した大人になり、恋が愛に成就するさまをつぶさに見られる、ドラマのような作品。お時間があってもなくても、ぜひ聞いてみてほしいです!