それはきっかけだったんだ、今思えば。

今日は春の雨のような、温かくて柔らかな雨が降ったり止んだりな一日でした。

なぜこんな優しげな書き出しをするのかというと、今回取り上げたい作品がこちらだからです。

 

   私の小鳥ーweißー ルドガー

      (CV:テトラポット登)

 

多分、今のところ私の心のプレイリストの一番上にある作品。短期間に様々な作品を聞いてきた私ですが、そのカオスのような視聴歴の中で今も燦然と輝きを失わないのが、金髪碧眼のチャラ王子、ルドガー君と真面目で一本気な田舎貴族の娘さんの物語なのです。

 

下男に「姫様」と呼ばれるヒロインが、城の手前の跳ね橋を馬車から見やるシーンがこの作品の始まりです。

下男(カール。とてもいい人で、私は彼のスピンオフ作品が出ることを心底望んでいます)との会話から、彼女の人となりがわかります。勤勉で品行方正。誰にも分け隔てなく接し、親にも使用人にも愛されて育った人物と知れます。

そんな彼女が出会うのが、人懐こくて見目麗しいけれどとても真面目とは言い難い王子様、ルドガー。初対面の日は約束の時間を寝過ごし、初授業の日は女を連れ込んでいるような、チャラいが上にもチャラい、遊び人の王子様です。

ことあるごとにヒロインをからかい、下手をすれば嘲っているようにさえ聞こえる発言を繰り返します。これ、家庭教師に行った先の小僧がこんな態度だったらさぞかしムカつくと思うの…でも、不思議と全然嫌な感じはしない。

ルドガーって、とても明るく優しい口調で話すんです。酒場の女を連れ帰った話をするときも、自分の悲しい生い立ちを話すときも。その口調はとても明るく響くのに、どこか影をはらんでいて物悲しい。

彼は、自分が喪失し続ける人生を運命づけられていると諦念しているんですね。父によって母や、母と暮らした慎ましくも楽しい暮らしや、その時育んだ将来の夢をも奪われてしまったから。

父親が王様だったから、という自分ではどうにも変えようのない事によって、彼は自分の人生を、王子以外の何者にもなることができないという無為なものに作り変えられてしまったんですね。

気の毒。

だからこそ、一瞬の楽しみや快楽を追い求める。一瞬の交わりであれば、彼は何者にもなる必要がないからです。彼には、誰かの恋人になるという簡単な役割ですら果たすことができない。そんな無力感が彼を刹那的な人間にしてしまっているわけです。

気の毒すぎるよ。

 

そんな彼のもとにやってきたのが、「Semper Fi!」とでも叫び出しそうな、忠勤一途な田舎娘なわけです。

女を連れ込んだといえば目を白黒させ、少しからかってやれば顔を赤くして口をひねってくるのに、のらりくらりと本音を隠してみても真っ直ぐに向き合い続けてくる彼女は、さぞかし眩しかったでしょう。そんな彼女に照らされて、昔の夢を少し思い出してみたりして。それはとても幸せな時間だったに違いありません。

ルドガーにとって、ヒロインの前は「自分以外の誰でもなくなっていい(王子でなくなってもいい)場所」だったのだと思います。母親とともに生活していた頃のように、「ルドガーでいる」という役割だけを果たせばいい。

私達が社会で生活する上でも、こういうことって起こりがちですよね。「○○社の営業さん」とか、「○○ちゃんのお母さん」とか、そういう肩書に縛られて自分の名前を失いそうなときって結構ある。そんな中で、古い友達だったりがたまに肩書抜きの自分に戻してくれると、凄く柔らかな気持ちに戻れたりして。

でも、悲しいかなルドガーにとってはその優しい時間も「刹那」でしかない。喪失し続ける彼は、そんな優しい場所も手放さざるを得ないのです。

 

そんなベッドシーン一回目。

 

私、こんなに丁寧で優しいのにこんなに悲しいラブシーン初めてだわ……

 

ご両親の褥を覗いたこと、ある?と聞いてきたルドガーの、悲しみに満ちた声。寝たふりをする幼い彼に見せつけるようにして閨事を行う父王、お前の血は何色だァァァ!(世紀末的伝説風味)私の中のなまはげが父王に向けてマサカリを振り上げた瞬間です。

そりゃませるわ、ませるしかないわ。だって、お母さんがいじめられているわけではないって理解できなければ、その恐怖を乗り越えられるわけがない。

閨事慣れしているルドガーは、それはそれは優しく丁寧に処女のヒロインの体を開いていきます。ドエロい。ドエロいよルドガー。

 

ここで言及せずにはいられないのが、テトラポット登さんの演技について。

私、今作が初テトラさんというわけではなく、実は別レーベルの作品を先に一作聞いていました。その作品についてはいずれ触れようと思いますが、それはそれとして。

そのときは、「明るいキャラクターのよく似合う(大学生の役でした)、若々しい声のキャストさん」くらいの印象しかなかったんです。

それが、今作で見事に裏切られました。

「あれ?どうしたの?なんでこんなにいろんな音が出るのこの人?ていうか、なんでこんなに心の色を声に塗ったくって出してんの?(涙を流しながら)」

私、すっかり掴まれてしまったんですよ、心(と涙腺おじさんのパンツの紐)。わたし、この作品を聞き終えるまでに相当泣きましたからね。私の涙腺に住み着いている涙腺おじさんのパンツの紐(これで涙腺を締めたり緩めたりする)は、テトラポット登さんの手の内にすっかり収められてしまったよ…

テトラポットさんの快進撃は今更言及する必要はないと思いますが、私がそれに気づけたのはこの作品でした。でも、それはまさにきっかけでしかなかった。(このあと私は坂道を転げ落ちるように波消しブロックの隙間に取り込まれて二度と戻ることはなかった)

ただ、この作品がきっかけだったことは大きな財産だったと思うのです。時に悲しげに、時に甘く優しく、包み込んだり包み込まれたりしながらいつしかヒロインと渾然一体となっていく(最終的に彼らは一心同体とも言うべき状態になったと私は思っています)様子は、何度聞いても色褪せないし、むしろ聞けば聞くほど気付きがあります。ああ、ありがとうツナボニコレクションさん。あなた方には他にも色々お礼を言わなきゃいけない(けどそれはまたの機会にします)。

 

それでは本編に戻りましょう。

悲しい情事を終えたあと、ルドガーは上手い別れの言葉も選べないまま彼女に背を向けます。これ、私にはとても優しい行為に見えました。どうせ先がないのなら、できるだけ後腐れがないように断ち切ってしまいたい。そのほうが自分はもちろん彼女も楽だろうと判断したんだと思います。でも、うまく行かなかった。いつものようにあっさり別れることができなかった。彼女と時をともにしたことで、ルドガーは見つけてしまったんですよね、自分というものを。それを、彼女の中にも植え付けてしまった。

私、それこそが愛だと思うんです。相手の中に自分を植え付けて、離れがたい存在にしてしまうことこそが愛なんだと思います。

孤独だけを持って立ち尽くしていたルドガーが思いがけず手に入れてしまった愛が、彼らの運命を大きく変えていきます。

 

ここでヒロインについて。彼女は愛を持って生まれて、愛をたくさん与えられて育ってきた幸せなお嬢さんです。だからこそ、少々生真面目すぎるきらいはあるけれど真っ直ぐで優しい女性になりました。でも、彼女は愛を与えられることはあっても、愛を与えたことはなかった。彼女にとって愛は注がれるもので、与えるものではなかったはずです。

そんな彼女が初めて愛を注いだ対象がルドガーでした。だから、彼との別れを迎えたとき彼女は寝込んでしまいます。そりゃ仕方がないよね。愛情という自分の分身を、たっぷりルドガーの中に置いてきてしまったんだもの。そう、彼女もルドガーと同じように彼の中に自分を植え付けて、彼を離れがたい存在に変えてしまっていたんです。

 

だからこそ、考えられないような無鉄砲な行動を、二人はやってのけられたんです。ボンボンとお嬢さんの生活力ゼロコンビが、外国商船に飛び乗って逃避行。ちょっと考えても、狭い世界しか知らない彼らにとってはあまりにも茫洋とした人生の始まり。

お前ら大丈夫か!

って思いもしたけれど、なぜか全然心配でない。だって、信じられないほど幸せそうですから。

 

二度目のラブシーンです。

まぁ甘え!歯が痛くなるくらい、目が溶けてなくなるくらい、とにかく甘え!

別れを思って言えなかった愛の言葉をささやき、彼女の愛を確信していたと告げ、虚ろだった自分を埋めた君が責任を取ってねと笑うルドガー。可愛い。前回よりも気持ちよくしてあげたいというルドガー。優しい。そしてそこからの怒涛の鼻息&リップ音。クソエロい!!!

おっぱい星人なルドガー王子、乳首責めのスキルが高すぎてこっちが気を失いそうになります。その後のクンニはもっとすごい。徐々に上がる液体量を、バッチリ音で教えてくれます。てかテトラさん、ほんとすごいよ。初めて聞いたとき、私イヤフォン外して音漏れ確認したからね。これ旦那に聞かれたらマジ死ねるし。

 

一つ一つ確認を取りながら、ゆっくりことを進めていくルドガー王子。ガマンできなくなって「入らせて」って言うけど、いや割ともういい頃だと思うよ!そんな彼に可愛いことを言って無益に煽っちゃうヒロインに、猛り狂いながらもなお優しく押し入っていく王子、素晴らしい!

絵描きなだけあって、観察眼が優れています。細かな表情の変化も、気付いては愛でる王子。いいよいいよ!愛を感じるよ!絵の中に閉じ込めたい、なんて言ってるけどそうじゃないね!腕の中だね!

 

彼ったら、結局ここで抜かずの二回戦を楽しんじゃいます。

ナイスハネムーンだよルドガー!

2発目、とてつもなくエッチです。ルドガーもだけどヒロインも。愛のあるセックスを、心底楽しんでいる様子の二人がとても眩しい。この二人なら、きっと少々のことくらいなら「寝れば何とかなる(いろんな意味で)!!」って乗り越えちゃうんだろうなぁと思わせてくれます。

 

ラストは、お互いの実家にする言い訳を練りながら、今後について語り合う二人。そこでルドガーが「似顔絵でも書いて暮らそう、できるさ、だってもともとは庶民の小僧だよ?」というようなことを言ったあと、「(先が見通せないのに楽しいなんて)私はイカれてるな」と笑います。

 

泣きました、私。だって、こんなに幸せなことってある?彼は今初めて、「見通せないほどたくさんの分岐のある先行き」を見て、心の底から楽しいと感じている。決まっていないことって恐ろしいことだけど、明るい気配がすればするほど恐怖を期待が凌駕していく。その高揚感を評して「イカれている」と言ってしまうルドガーは、喪失という重いコートをようやく脱いで、彼女の暖かな愛をようやく全身に浴びているんだなぁって感じました。

 

ということで、長くなったので名作との呼び声も高い特典についての言及は割愛して、私の小鳥白(と普段は呼んでいる私)についての感想を終えたいと思います。

最後に。

 

ルドガー愛してるよぉぉぉぉ!しあわせになってねぇぇぇ!!!